5年生のエンジニアリングデザイン最終発表
2025年1月22日(水)、エンジニアリングデザインV最終発表会がラーニングコモンズで開催され、5年生が後学期の研究成果を披露しました。エンジニアリングデザインは国際高専のものづくり・コトづくりの核を担う科目で、実社会にある問題を発見・解決します。卒業前最後となる5年生の発表は英語でポスターセッション形式で行われました。各研究の内容を簡潔に紹介します。
Development of Scratch Programming Materials to Control Spherical Robots by Image Recognition
本田 詩織
2020年、文部科学省は情報化社会に適応する人材を育成するべく、小中学校でのプログラミング教育を必修化しました。本田さんはこの需要に対応するために基礎的なプログラミング技術と画像認識の教材を開発しました。使用するのはScratchの拡張機能とブロックプログラミングで、Sphero(スフィロ)と呼ばれる球体のボールを操作します。本田さんが開発した実例は鬼ごっこゲームで、人間の指の方向にSpheroが動くようにプログラミングし、ランダムに動く「鬼」Spheroから逃げます。若いうちにScratchに触れるハンズオン教育を行うことで「難しそう」というハードルを取り払い、プログラミングや画像認識の基礎知識のみならず課題解決力を楽しみながら伸ばすことができると本田さんは言います。
Development of a Learning Website to Improve Secure Coding Skills by Fixing AI-Generated Vulnerable Code
バシュロ 瑠海ジェームズ
サイバー攻撃が増加傾向にある現在、安全性の高いプログラミングコードを書ける人材が求められています。この需要を満たすべくバシュロさんが開発したのはAIを活用してプログラミングの練習ができるウェブサイトです。5つのプログラミング言語に対応した本サイトはChatGPTによって生成された「脆弱性が高いコード」を練習問題を解く要領で修正することでスキルを磨くことが出来ます。書いたコードはAIが評価し、的確にフィードバックしてくれます。サイトはユーザー同士が交流・質問できるフォーラムも完備し、すでに稼働している状態です。
The Effect of Music on Concentration while Studying
戸塚 裕基
戸塚さんは勉強中に音楽を聴くことで効率が上がるのかを検証する研究を行いました。使用した機材は脳波(EEG)を測定するEMOTIV社のヘッドセット「Insight」で、実験方法としては被験者に国語の試験などをしてもらい、様々なジャンルの音楽をかけて脳波の変化を記録しました。Insightが計測できる脳波のうちBeta-lowとBeta-highが集中に関連していると考えられており、5人の被験者のグラフを観察すると平均的にクラシック音楽が最も集中している結果となりましたが、個人差が大きく結論を導き出すには不十分でした。実験を行った戸塚さんは「音楽が集中に何らかの影響を及ぼしていることは間違いないが、ジャンルよりも被験者の好みの影響が想定以上に大きかった」と感想を述べていました。
Development of a Scrap Material Management System
山崎 史依
国際高専のメーカースタジオには学生がものづくりに挑戦するために様々な機材が設置されています。最も使用頻度が高いひとつがレーザー加工機で、アクリルや木材を自在に切ることができ非常に便利なのですが、穴があけられた端材が残ります。山崎さんはこの余ってしまった端材に着目し、端材をデータとして取り込み、ユーザーが切ろうとしている図形を自動的に配置してくれるシステムを開発しました。自作の撮影ブースに端材を設置するとアルゴリズムが図形を自動的に回転・配置します。課題として計算に時間がかかってしまう場合があり、回転の角度を調整するなど改善したいと考えています。
Predicting Stock Price Using Machine Learning
勝方 正宗
投資で資産運用したいと考える人が増加していることを受け、勝方さんは機械学習によって株価の動きを予測するシステムを開発しました。日経平均株価、スペシフィック・リターン、RSI 14、ドルと円の為替レートのデータを元に、グレンジャー因果性検定、ファクターモデル、LightGBMで分析を行いました。明確な結論にはたどり着けませんでしたが、個人投資家がこの株価予測モデルを使用すれば効率的に資産を増やすことが可能になり、老後の経済的安定を実現できると期待しています。
Development of a Simulator Considering Airflow for Safe Navigation of Small UAV in Mountainous Areas
酒井 瞭
高齢化が進む日本において、中山間地域での配達員不足が懸念されており、その解決策として無人航空機(いわゆるドローン)による荷物の搬送に期待が寄せられています。懸念点は山岳地域の複雑な気流で安全に届けられるかどうかです。酒井さんはこの課題を解決すべく、中山間地域の気流をシミュレートするプログラムを作りました。流体力学で用いられるナビエ–ストークス方程式で気流を予測し、ラージエディシミュレーションで乱流を計算。プログラムに現在の風の状況を入力すると色分けされた地図が表示されます。課題としては現在のプログラムでは数百メートル四方しか計算できず、全国の中山間地域をカバーするにはスーパーコンピューター級の計算能力が必要だということです。しかし、能登地震のような災害時に孤立集落へ物資を届ける場合はピンポイントに地域を絞れるため、活躍の場があると踏んでいます。
Development of an ADHD Brain Training Game System
久高 将莉
久高さんは近年増加しているADHD(注意欠如・多動症)患者が注意力を鍛えることができる脳トレーニングゲームを開発しました。一般的にADHDはDSM-5で診断しますが、このゲームを使用すればADHDを改善するだけではなく、脳波(EEG)を分析することよってADHD患者をより迅速かつ正確に検知できるメリットもあると言います。プレイヤーは画面に映る図形をボクシングの要領でパンチし、その動きをKinectで読み取ります。頭に装着したEEGヘッドセットがAF4(右前頭部)とAF3(左前頭部)の脳波を計測し、注意力を示すTBR(シータ/ベータ比)を算出します。定型発達のTBRは通常1.5~2.5ですが、ADHDは3.5~5.0であることが多いです。残念ながら今回の実験ではTBRに有効な変化が見られませんでしたが、計測改善のヒントは得られた手応えがありました。
Serious Game for Fire Extinguisher Training
キルパラーニ・アニッシュ
日本の火災被害について調べると低い火災件数に対して死亡率が高いことが分かります。これは避難が遅れがちな高齢者が多いことと、初期消火の訓練が少ないことが原因です。消火器の使い方は学校で習いますが、コストがかかるため実際に訓練する学校は稀です。そこで低コストかつ正しい初期消火の知識を身に付けてもらうために、キルパラーニさんは教育用のゲームを開発しました。Blenderで作った3DモデルにUVマッピングでテクスチャを付け、ピンを抜くなどの正しい手順や火の根本を狙う必要があるなど本格的な作りに仕上げました。使用したプログラミング言語はUnityです。ブースでは開発したゲームを実際に遊ぶことが可能で、発表を聞いた参加者が試遊していました。今後の課題としてはリザルト画面を製作し、プレイヤーに出来栄えを伝えるシステムを作ることです。
まもなく卒業式を迎え世界へ羽ばたく5年生ですが、中学校を卒業して国際高専へ入学したての頃と比較すると大変成長した姿に感動いたします。